石川】次に、最低賃金の引き上げと中小企業への支援策についてです。
8月、国の審議会で最低賃金の全国平均が過去最大となる63円引き上げられることが決まりました。これにより、神奈川県の最低賃金は10月4日から1,225円となる予定です。働く人の暮らしを守るうえで、賃金の引き上げは重要であり、県としてもこの流れを支えていく必要があると考えます。
一方で、大幅な賃上げは中小企業、特に体力の弱い小規模事業者にとって大きな負担となります。昨年の議論では、企業側も賃上げの必要性を理解するようになったとされていますが、体力の弱い企業にとっては、経営や雇用に深刻な影響を及ぼすことが懸念されます。その課題の一つが、増加する人件費を適切に「価格転嫁」できるかどうかです。帝国データバンクによる今年2月の「価格転嫁に関する県内企業の実態調査」によれば、価格転嫁率は38.6%にとどまっています。さらに業界別の調査では、運輸・倉庫業、建設業、サービス業、不動産業といった分野で転嫁が進んでいない状況が報告されています。燃料費や資材費の高騰に直面しながらも、取引慣行などの影響で価格を見直せず、人件費の増加分を自社で負担せざるを得ない事例もあると伺っています。こうした業界では、最低賃金の引き上げが経営や雇用の継続を妨げかねないと考えます。
今後は、価格転嫁が進みにくい業界の実情を丁寧に把握し、商工会議所や業界団体と連携して相談や仲介の仕組みを整えること、また県独自の調査や情報発信を通じて取引環境の改善を後押しすることが求められます。
さらに、2026年5月には「企業価値担保権付き融資」が始まり、金融機関が技術やブランド力などの無形資産も含めて事業価値を評価できるようになります。そのためには、経営者自身が自社の強みをわかりやすく示し、将来の事業計画を明確にすることが重要です。県としては、経営者の学びや事業計画づくりを支援する体制を整え、この制度を含めた支援の取組みを後押ししていく必要があると考えます。
そこで知事に伺います。今回の最低賃金引き上げを、価格転嫁が進まない業界の実情を踏まえてどのように受け止めているのか。その上で、県としてどのような支援を進め、中小企業が安定して経営を続けられるようにしていくのか、知事の所見を伺います。
黒岩知事】次に、最低賃金の引き上げと中小企業への支援策についてです。
今回の最低賃金の引き上げについては、公益代表、労働者代表及び使用者代表による議論の末に決定されており、その決定を尊重したいと考えています。また、価格転嫁については、業種により差が見られるものの、状況は改善してきていると認識しています。
しかし、国の調査では、受注企業の取引階層が一次下請け、二次下請けと、深くなるほど価格転嫁率が低くなる傾向があり、規模の小さい中小企業における転嫁率の低さが課題です。そこで、1月に、県内政労使のトップによる会議を開催し、中小企業の生産性向上と適正な価格転嫁等に共に取り組む共同メッセージを発出しました。また、国に対しても、受託取引の監督の強化や、取引調査員、いわゆる下請Gメンによる取引実態の把握の強化などについて、要望を行っています。これに加え県は、中小企業が賃上げの原資を確保できるよう、生産性向上に向けた40億円の補助を昨年度に続いて実施しているところです。県としては、こうした取組を引き続き進めていくとともに、価格転嫁や経営力向上のセミナーを実施する商工会や商工会議所等とも連携し、中小企業が持続的な賃上げを実現できるよう、経営者への学びの機会の提供など総合的に支援してまいります。